司書ヒソカ×学生クロロ


―キーンコーン、カーンコーン…


俺は学校が終わり、足早に校門を出ようとしていた。

「クロロ~。今日こそ一緒にカラオケ行くぞぉ!!」

が、友人の遊びの誘いに止められる。
くるりと振り返り

「悪い!!図書館。」

と、ひとことで断る。

「はぁ~。アイツ最近、図書館ばっかり行ってるよなぁ。」

そんなため息を背中に受けながらも足は止められない。


――……・


‐ウィーン

図書館の自動ドアすら遅く感じる。
俺は少し乱れている息を調えながら、席を探す。

(あ…よかった、空いてる。)

俺はとある席に着くとおもむろに教科書を取り出し机に置く。

(よし。)

準備OK。これで今日もこの席で勉強が出来る。

俺は席を立ち、数学の参考書の棚まで歩いていく。
参考書の棚は丁度、貸出しカウンターの前を通りすぎて直ぐ。

通りすぎる時にチラッとカウンター奥の壁に立て掛けてある時計を見る。

(16時46分。まだあと二時間ちょっとは図書館にいれるな。)

そう思って視線をカウンターに落ろしたら、座っている司書さんに目が移ってしまった。

(し、しまった…。)

顔が赤くなってないか心配でしょうがない。

参考書の棚まで行って彼に背を向けながらも、時々後ろをチラチラと見る。

(やっぱり…カッコイイ。)

カウンターで頬杖を付きながら小説を読むのは、この図書館で働く司書のヒソカさん。
いつも3つある席の一番右端に座る。

そして、俺が座った席はそのヒソカさんが座っている席がよく見える席だったりもする。

あの席を求める理由がそんなんって、ある意味…

「痛い男子だよなぁ。」

ふと声に出してしまったが、周りにはそんなに人がいなくて、一応セーフ。


いつも使ってる数学の参考書を手に取り、席に戻る。

顔は前に向けるけど、視線だけヒソカさんに…。

ペラッと小説を捲る指。
それに視線を注ぐヒソカさん。

…絵になる。


「ん?」

ふと、ヒソカさんが視線を上げてこちらを見た。

(や、ヤベッ!!)

何もなかったかのように装い、歩みを進め席についた。

(し、しまった見つめすぎ……ん?)

「こっちが返却で、あとこの二冊が貸し出しで。」

ヒソカさんの前には長髪の男が立っていた。

(な、なんだ…。あの人に反応したのか…。)

残念なような、良かったような…。

「最近、毎日のように来てますね。」

ヒソカさんから話しかけてる。
普段はお客さんに話しかけたりしないのに。
…なんでだ?

「ヒソカが教えてくれた小説が意外と面白くてね。」

え…?
名前呼び捨てにして…

「あぁ。だろ?この作家のサスペンスは面白いんだ。あ、良かったらもう一冊貸そうか?」

ヒソカさんが…笑ってる。
どんなに綺麗な人が借りに来てもいつも笑顔を見せたりしないのに…。(←ある意味問題www)

俺はギュッとシャーペンを握りしめる。
少し長く出しすぎたシャー芯が机に触れて、パキッと折れて転がった。



―~♪♪~♪~♪

急に鳴り出した携帯電話。

(うわっ!?や、ヤバッ!!マナーモードにし忘れた!!)

急いでケータイを開く。電話だ。

「はい。」

焦ってその場で応答した。

「あ、クロロかぁ?あのさ、やっぱり人数調整でお前に来てほしいんだわ。今からカラオケ来れる?」

「お前、俺が図書館行ってるの知ってるだろ!?電話してくるって何考えてんだよ。」

「しょうがねぇだろぉ?人数合わねぇし、お前来なきゃ始まらないんだよ~。可愛い女の子たちが待ってるぞ~。」

「行かねぇよ。マジ何考え…

『何考えてんだ』と言おうとした瞬間、誰かに肩を捕まれた。

「スミマセン。館内での通話はご遠慮いただけますか?」

…え?
ヒソカ…さ、ん?

振り返るとそこにはヒソカさんがいて。

思考回路一旦停止。

「あっ!!す、スイマセン!!」

友人が電話越しにまだ何か言っているのにも関わらず、俺は電話を切った。

「いえ。」

そう言って、カウンターに帰っていく。


やってしまった。
嫌われた?
てか、悪印象だよな…。
どうしよう…。
ヤバい…明日から来れないよ。
どう…しよう。

その日は勉強もとても手につかなくて、30分もしない内に図書館を出た。



――…・

翌日学校に着くと昨日電話を切った友人に話しかけられた。

「クロロ、昨日急に電話切っただろ。その後音信不通になるし…どうしたんだよ。」

正直、真剣にキレていた。
お前のせいで俺の大切な時間が台無しになった上に、今日から行きづらくなってしまったんだ。

でも、心配してくれてるみたいだし、キレるにキレれなくて。

「悪ぃ。館内での通話は駄目だからさ。慌てて切った。」

言った瞬間に、昨日のヒソカさんを思い出してしまう。

あんなに近くで見たこともなかったし、カッコ良くて…綺麗で…。

――……・

気付けば授業も終礼も終わっていた。

放課後、何もすることがない…。
昨日のアイツは気にして今日は誘ってこないし…。

とりあえず、校門を出た。

コンビニに寄って漫画を立ち読みして飲み物買って、フラフラと足を進める。

コンビニで買ったペットボトルを飲みながら歩いていたら…。


つい手に持っていた、キャップを落としてしまった。

(何で、ここにたどり着くかな…。)

気付けば図書館についていて、俺自身呆れた。

来たなら、入るか。
と自動ドアをくぐる。

貸出しカウンターが見えた。
ヒソカさんは…いる。
いつも通り椅子に座って小説を読んでる。

何か、少しホッとした。
気にしていたのは俺だけで、ヒソカさんは気にしてないのか。

けど、それは同時に悲しくもさせた。

意識してるのは自分だけ。

そう、痛感させられたみたいで…。

カウンターの前を通らず、俺は小説の棚に足を進めた。

俺は知らなかった。
この時、ヒソカさんが俺を見ていたなんて。

小説の棚で面白そうな小説を探す。
気になるのは昨日ヒソカさんの言っていたオススメの作家さん。

ヒソカさんに聞く勇気は勿論無くて、 特徴のあった表紙と背表紙を手がかりに棚を見ていく。

タイトルも何も見ずに見ていくから、どんどん進む。

棚の一番下に見覚えのある背表紙を見つけた。

(これだ!!へぇ…。こんな作家さん知らないな。)

手にとって表紙をみて確信した。
まさしく、ヒソカさんが長髪の男に貸していた小説。

表紙を開き、読み始める。

(サスペンス系かぁ。引き込まれるな。)

ペラペラと読み進める。




「その作家さん、ラブロマンス系にこだわってあんまり売れなかったんですけど、サスペンス系はかなり面白いですよ。」

…え?

声が聞こえた方を見るとヒソカさんが棚に小説を並べていた。

「へ!?あ、あぁ。そうなんですか!?」

急なことにテンパってキョドってしまう。

「はい。まぁ、最後が少しバッドエンドなんで、嫌いって言う人が多い…あ、ラスト言ったらつまんなくなっちゃいますね。スイマセン。」

クスッと笑いながら言うヒソカさんが俺の目の前に立っている。
それだけで夢のようで…。

「あ、いや。大丈夫です!!更に読んでみたくなりました。」

話していることも夢みたいで…。

「そうですか?良かった。君にぜひ読んでもらいたかったから。それ、面白いですよ。保証する。」

「あ、はい。…って、え?俺…に?」

「そう。君に。」

そう言って見つめてくるヒソカさん。

「自習に来てたよね?数学の。」

「え!?な、何で知って…」

「だって、俺の席からよく見えるし。決まった時間に来るから。」

俺からよく見えるってことはヒソカさんからも見えてる。
なんて、考えれば分かることなのに、全然意識してなかった。
学校帰りに来るから決まった時間になってしまっていたことも。

ビックリしている俺を見てクスクス笑いながら、ヒソカさんは話を進める。

「毎日数学漬けじゃ、息抜きしなきゃダメじゃないかなぁ。って思ってカウンターに俺オススメの小説準備して待ってるのに、君は本を借りないで帰っちゃうから、カウンターには来ないし。」

え?嘘…だろ。

「たまたま、来たイルミに小説見つかって貸すはめになるし。イルミより先に君に貸して、感想聞きたかったんだけどね。」

少し残念そうに話すヒソカさん。

俺はまた思考回路が停止していた。

毎日来ていたことに気づいてくれていたこと、教科まで知っていたこと。

そして何より、ヒソカさんが小説を俺の為に用意してくれていたことが一番嬉しくて。

「あ、じ、じゃあ!!今日借りて帰ります。小説読むのは早い方なんで。」

急に叫ぶように話し出したら、クスクス笑ってから

「じゃあ、全巻貸すよ。貸出し期間は1週間だからね?」

と意地悪そうに笑った。


カウンターまでヒソカさんについていく。

カウンターにヒソカさんが座ると、何か紙を取り出した。

「え?何ですかコレ?」

「貸出しカードの申込書。君、カード持ってないでしょ?」

あ、なるほど。
ペンを借りて、サラサラっと名前を書いていく。

その姿をヒソカさんが頬杖を付きながら見ている。
妙に緊張するな…。

「ふーん。君、クロロくんね。」

「あ、はい!!そうです。そうか、ヒソカさんは俺の名前知らないですよね。」

「うん。まぁ、クロロ君が俺の名前知ってるのは少し気になるとこだけど、まぁ聞かないでおくよ。」

ニッコリ笑ったヒソカさんに多分、赤面してしまったと思う。

「はい。カードと小説。気を付けて帰ってね。」

そう言われて手渡された小説をもらって、図書館を出た。

小説の上に置かれたカードを財布に入れようと、カードの名前の欄を見た。

そこに「クロロ」とヒソカさんの字で書かれていて、自然と笑顔になってしまったんだ。

END
 

 

 

 

友よ、普段より三割り増しピュアで可愛い学生クロロをありがとうっ! 贋作